忍者ブログ
日々の萌語りとSS


愛ある黒サガムウの続きです。




***
 
 
目の前に本の山がどん、と積み上げられた。
それ程古い本ではない。いや、むしろ比較的新しく見える本が多いので、聖域の書庫からのものではなさそうだ。
 
「は??これ全部読めっていうんですか?」
「正確には、理解しろ、だ。正しく理解できるのならば、愚直に最初から最後まで読む必要は無い」
「だけど、これなんか原語の原著じゃないですか?」
 
私は天辺の一冊をぱらぱらとめくって抗議の声をあげる。
 
「当然だ。解説本を読んでどうする。まずは原著を読んでからだ。それに原語のほうが理解しやすいこともある。特に人文社会系の書物の分かりにくさの多くは翻訳のせいだ。
ヘーゲルだって原語で読んだほうが意味は余程わかりやすいだろう?」
「…」
聖闘士が果たしてそんなものを読む必要があるのか。
 
「お前はろくな教育を受けていないのだから、せめて黄金に恥じない知識を身につけるよう心がけろ」
誰がそんな状況に私を追い込んだと思っているのだ。私は不満と怒りを隠そうともせずサガをにらみつけた。
 
「今度来た時に質問する。それまでに上から20冊目までを完全に理解しておけ」
私は返事もせず、なるべく反抗的に見える態度でサガからそっぽを向く。
 
サガはそんな私を見て、揶揄するように言う。
「・・・気に入らないようだな。まあ、よい。これらの本の多くは、私がお前の年に読んだものだ。
中にはお前の『偉大なる師・シオン様』に読むように言われて読んだものもある」
師の名前を聞いて、私は素早くサガの顔を見る。
 
「フフン、シオンは私に帝王学を与えたつもりだったようだが、結局は反逆者を育てただけだったな。実に間抜けなことよ。シオンはきっとお前にもこの本を読ませただろうな。
しかし、原著主義とは、全くどこまでも前時代の遺物だな。もっともその意味では、私もシオンの愚かさを自分のものとしてしまったようだが。ククク・・・」
 
またも私を不愉快にさせるようなことを言ってサガは消えていったが、私はもうサガのことなど気にしていなかった。
 
それではこれらの本の中には、もし何事もなかったらシオン様が私に下さっていたであろうものが混じっているのだ。
そう思うと、言葉も分野も様々なこれらの本が、シオン様からのお言葉のように思える。
 
それにそもそも、私は本を読むのが好きなのだ。このような人里離れた所でも本を読むことにより色々な世界を知ることができる。
 
先ほどサガに目の前に積まれて読むように言われた時は、その高圧的な言い方に一瞬むっとしたが、今となってはむしろ宝の山のように見えてくる。
タイトルに目を走らせ、何冊か本を開いてみる。
 
どの本にもアレクサンドリア図書館と双子座の聖衣をアレンジしたEx Libris(蔵書票)が貼ってある。
銅板印刷のような端正な字で彼の名前。それではこの大量の本はサガの私物なのだ。
彼は、私の年にシオン様に言われてこれらの本を読んだと言っていた。
 
 
私はサガが置いていった本を読み始めるのが楽しみになってきた。
 


***
 
*フリースクール@ジャミール

*拍手・コメントありがとうございます。
今晩からまた旅に出ますが、pc環境確保できると思いますので、日々更新継続する予定です。
頑張ります~ 

 

拍手[7回]

PR

昨日の続きです。


***
 
 
高地での訓練は平地でのそれの何倍も負担が大きい。幼少よりここに住み、体が薄い空気に慣れている私でも、何時間も夢中で動けば相当消耗する。
 
サガへの憎しみのままに技を放ち、訓練というよりも暴力的な衝動のままに岩山を破壊しつくした私は、ついに完全に体力が尽きて崩れ落ちた瓦礫の間にばたんと横になった。
いずれにせよ目の前の岩山はもう姿も無い。また後で元のように積み上げておかなければならないだろう。
 
 
息を整えながらぼんやり空を眺める。
今日のジャミールはとてもいい天気だ。透き通った真っ青な空には雲ひとつない。
峻厳な山の峰に切り取られた深く澄んだ青色。この透明な青が私に昔知っていたある瞳を思い出させた。
 
・・・あの綺麗な瞳をした人はどこに行ってしまったのだろう。あの頃あんなに優しかったあの人は、本当に心のどこかに黒い邪悪を隠していたのか?
 
先ほどまでの身を焦がすような憎悪の念は、破壊し尽くした岩山と同じように、いつの間にか小さく砕けてどこかに崩れ去ってしまった。憎しみはまた、サガに対する疑問に形を変えていく--
 
 
今の黒いサガの奇妙なバランス。
 
彼は「偽」教皇とはいえ教皇職に全霊を傾けて打ち込んでいる。
アクの強い聖闘士集団をよくまとめ、彼らの忠誠と献身をよく維持している。黄金聖闘士の中にすらサガの本当の姿を知ってなお、従っているものがいるようだ。それに近隣の村のものからは、相変わらず神の化身のようだと慕われている。
その点では、公平に見てサガはかなり上手く聖域を運営していると言えるだろう。
 
しかし一方で、サガはそれに伴う名誉や栄光というものにはまるっきり無関心だ。
あれほど懸命に努力していることに対して、自分自身がなんの評価も得られなくて、それでも変わらず尽力し続けられるものだろうか?
 
いわばサガの努力の成果は、公式にはみなシオン様のものとなる。歴史に残るのも、評価されるのも、自分が殺したいほど恨んだシオン様の名前のみだ。
 
名誉を求めず、自分はあくまで影として地上を守り、聖域の運営に力を尽くす―― この客観的事実は「邪悪」な彼の姿とどうしても一致しない・・・
 
 
彼は妙に自分を大切にしていない。

私は唐突に思い出した。
 
 
サガはいつも、どこかそういうところあった。
黄金の中でも最年長で最強の自分自身の存在に、どこか後ろめたさを感じているような、
任務に打ち込みながらも、どこか違うところを見ているような奇妙さ。
 
それは、破壊するものであると同時に、修復し守るものである私自身にも通じる、矛盾した星のさだめがもたらす距離感だった。
 
しかしそれでも、かっての彼はその距離感を、冷静でこまやかな配慮にかえて、みんなを暖かく見守っていた。幼い私の孤独に気づいてくれたのは、サガだけだったのだ…
 
 
今の彼のその時とは違う。この自分自身に対する無頓着さは何故なのだろう…?
この黒いサガは誰なのだろう?何故サガは邪悪な黒に身を堕としたのか…?
 
 いくら考えても答えの出ないパズル――
 
 
その時、頭の中にチカッと閃くものがあった。
 
 
――何かが、足りない。
 
 
パズルを組み立てる上で、何か重要なピースが足りないのだ。
だから、どうしても絵がちぐはぐになってしまう。
 
何か私の知らないことがある――
 
 
私はこの新しい確信を頭の中で何度も反芻しながら、ゆっくりと瓦礫となった岩山を片付け始めた。
 
 


(続く)
 明日は黒サガ登場の予定です。

 
 

拍手[6回]

 


前回の愛ある黒サガムウ@のジャミールの続きです。

色々自分なりに、「サガの乱」について考えた結果の妄想です。

原作に書かれていない部分を捏造したり(というか、そもそも全てが捏造ですが)、
ひいきが著しいですが、スミマセン。

寛大な気持ちで読んでやろうという方、どうぞお進み下さいませ~



***
 
 
 
サガはなぜあんな事をしたのだろう?
 
 
それは私の心に新しく芽生えた疑問だった。
 
 
そしてシオン様。シオン様は何事かが起ころうとしていることに気づいていた。
ではなぜそのための準備をしたり、防ごうととしなかったのか?
 
いや、違う。
私にジャミールに行けと言った時、幼い私でも生きていけるよう必要なインフラとシステムは既にできていた。ということはシオン様はやはり事態をある程度予見し、準備していたのではないか?
では何故事態を避けようとしなかったのか?
 
それにシオン様ほどの人が、いくらサガが相手とはいえ、予想済みの攻撃を受けた時、一撃の下に倒されるなどというのはおかしくないか?
 
思いがシオン様に及んだ時、私の内部に熱い溶岩のような憎しみが沸々とせり上がって来るのを感じた。
サガ。邪悪な教皇位の簒奪者。--彼を許すわけにはいかない。
シオン様は私に、サガの手から逃れよと、かたきを討てとジャミールに逃げるよう言ったのだ。
サガを決して許さない!
 
私は自分の中に膨れ上がった強い憎しみに耐え切れなくなり、外に駆け出すと修行場にしている岩山に一人向かった。


 

拍手[4回]

web拍手
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
ブログ内検索
バナー。リンクの際はお持ち帰りでお願い致します。
プロフィール
HN:
たると
HP:
性別:
女性
自己紹介:
中羊受および双子・獅子・シベリア師弟などについての妄想が渦巻くコキュートスです。
その他☆矢派生作品(Ω、LC等々)の感想も。
御用の方は拍手またはこちらまでどうぞ↓
gotoplanisphere☆yahoo.co.jp ☆→@

忍者ブログ [PR]