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日々の萌語りとSS
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LoS黒サガムウの続きみたいなものです。映画みちゃったら、もう申し訳なくて書けないような気がするので、とりあえずこのひと月はLoS黒サガムウ頑張ろうと思います。

LoS駄目黒サガムウ@ジャミール時代を読んでみる方は折りたたみへどうぞ。(それにしても色々とひどい)



(ほんとはサガかっこいいよ!ムウ様かわいいよ!)








***


大きな音をたててジャミールの館の扉が開いた。
振り向いたムウの眼に荷物を手にした背の高い黒髪の姿が映る。人里離れた館を訪れたのが誰かを見てとると、ムウは一言も発さず再び作業台に向かった。

そのまま作業を続けるムウの後ろ姿を、戸口にたったままサガはしばらく無言で眺めていた。ムウの背中はサガの存在を拒絶するように固いままだ。ムウが口を開く気が全くないのを見ると、サガは荷物を床に置いてずかずかとムウの正面に回り、作業台に手をついた。

「挨拶の言葉もなしか?こんな辺境で独り閉じこもっていると、口のきき方も忘れるようだな」
「……」
ムウは顔もあげずにもくもくと手を動かしている。
「久しぶりだな」
「……」
「あれから、十日、いやもうすぐ二週間になるか」
下を向いたままのムウの肩の線がかすかにこわばる。
「独りさみしく泣き暮らしているかと思ったが、息災か?」
「……何をしに来たんですか?」
「何をしに来ようと私の勝手だ」
「用がないならお引き取りください。偽教皇様は、世界を欺くお仕事でお忙しいでしょう。こんな場所で私のようなものと時間を無駄に過ごしていると、いずれ足をすくわれますよ」
「相変わらずのへらず口だな」
ムウの返事を気にする風もなく、サガは机を回り込んでムウの隣に立った。そのままサガを見ようとしないムウの横顔にじっと視線を注ぐ。後ろで一つに結わえたムウの髪には舞いあがった金属屑がきらきらと光っていた。無言のままサガは、ムウの頬に触れようとするかのようにふっと手を差し伸べた。
「!」
反射的に身体をひいたムウはサガと一瞬真正面から向き合う。だが、すぐに顔をそむけると、作業台に向き直りウェスを握りしめた。反抗的に視線をあわせようとしないムウの横顔に、サガは冷たい笑みを浮かべる。
「……眼鏡をなおしたのだな」
「!…」
思わず片手をあげて眼鏡に触れたムウの手首を、サガの大きな手が掴んだ。
「なにを――!」
そのままサガは強引にムウを引き寄せると、ムウが抵抗する間もなく乱暴に唇をおしつけた。だが、眉をしかめ、唇を固く結んでサガを受け入れまいとするムウの頑なな様子に、サガは不快そうな表情でいったん唇をはずす。
そのまま苛立たしげに作業台の上のものを大きな手でなぎ払うと、ムウを大きな作業台の上に押し倒した。
「やめ…っ!」
「……おとなしくしたほうがいい。暴れると、せっかくなおした眼鏡がまた”あの時”のように壊れることになるぞ」
そう耳の中に囁かれたムウは、かっと赤くなる。
「お前は私のものだ、アリエスのムウ」


***


そのまま服をはぎ取る間ももどかしげに、サガは着衣のままムウを組みしいた。相変わらず目も合わせなければ声もあげないまま抵抗するムウに、サガは苛立ったように言う。
「何をとりすましている?最初は嫌がるふりをしていても、結局お前は最後には私を求めるのだ。であれば、最初から素直になってはどうなのだ?その方がお前も無駄に痛い思いをせずにすむであろう?」
「……」
「――とはいえ、手間がかかりすぎるのは煩わしいが、活きがいいのは悪くない。少しは抵抗されるほうが、より楽しめるというものだ」
そむけたままのムウの顔の線がこわばる。そのまま急に身体の力を抜くと、サガを押しのけようとしていた手がぱたんと落ちた。突然反抗をやめて人形のようになったムウの態度にサガは声に怒りをにじませながら低い声で呟く。
「……なるほど、お前はどこまでも反抗的だな」
そむけたままのムウの顔を大きな手でつかむと、無理やり自分の方を向かせた。
「そんな態度がどこまで通用すると思っている?何を勘違いしてるのか知らぬが、お前の支配者はこの私だ!」
額と額が触れ合わんばかりに顔を寄せたサガの眼を、やはりムウは瞼を伏せたまま見ようとしなかった。




それからのひと時は、ムウにとってもサガにとっても快楽なのか苦痛なのか分らない、ただ行為に沈み込んでいくだけの時間だった。ただ支配しようとするかのようにサガは強引に身体を重ね、深く入り込んでいく。何度もぎりぎりまで苛まれるが、決して解放は許されないムウは、いつの間にかサガの体に腕をまわして強くしがみついていた。夢中で身体を押しつけるムウに、サガは荒い息の下で小さく満足そうな笑みを浮かべる。もう一度貪るようにキスをすると、唇を重ねたままムウに囁く。
「……ムウ、私を見ろ」
サガの言葉に熱に浮かされたような目をふうっと開けたムウは、一瞬サガの顔を見る。
だが、すぐに唇をはずすとゆっくりと首をめぐらせて、どこか余所へと目を向けた。

――何故お前は私を見ないのだ!
かっとなったサガは一瞬拳を固く握ったが、そのままムウの視線を追う。
ジャミールの部屋には最低限のものしか置かれていない。ムウの視線の方向には、ぱちぱちと小さく音をたてて燃える暖炉があるだけだった。あの日無理やり見せた鏡も、もう暖炉横のコンソールの上にはない。

そのとき、暖炉棚に置かれた1枚の古いスナップ写真がサガの視線をとらえた。少し色が褪せたその写真には、小さな黄金聖闘士達が写っている。昔の写真だ。多分、黄金聖衣を拝領してまだ間もない頃なのだろう、聖衣姿の幼い聖闘士達は皆どこかぎこちない。一列に並んだ子供達の後ろに立つ射手座聖衣姿のアイオロスは明るい太陽のように笑っている。
その写真には、五老峰の童虎を除く黄金聖闘士全員が写っていた。
――ジェミニの聖闘士以外の全員が。

ふ、と皮肉な笑みが浮かんだ。
そうか、アリエスのムウよ。お前はどこまでもこの私を拒絶するのだな。写真の中の過去にすら、私の姿を見たくないというわけか。
自分を拒絶するように今は固く目を閉じ顔をそむけたムウの快感に上気した白い横顔を見る

――そうだ、覚えている、この写真は、多分私が撮ったものだ。

あの頃、次の教皇になるのは私であろうと、アイオロス自身を含めた聖域の皆が思っていた。私は多くの人々から神のようだと慕われていたが、それが当然と言えるほどたゆまぬ努力を重ねていた。そして、シオンに認められて教皇の座を継ぎ、カノンはジェミニとして、私は次期教皇として、地上の愛と平和のために尽くそうと思っていたのだ。
そう、私は必死で聖域への疑問を押し殺し、地上の愛と平和のために、アテナと聖域を支えるために全身全霊で努力していたのだ。

だが、全ては変わってしまった――


サガは突然ムウから身体をひき離した。そのまま暖炉の上から古い写真を乱暴に取ると、ムウの肩をつかんで強引にひきおこす。
「この写真はなんだ!」
驚いたように開かれたムウの眼が、つきつけられた写真に焦点を結ぶ。
「お前が見ているのは誰だ?何もないこの部屋で、こうして唯一お前が飾っているのは一体誰の写真なのだ?!」
ムウの頬が微かに赤くなる。
「――そんなこと、あなたに関係ありません」
「お前がどう考えるかではない、私が訊いているのだ!答えろ」
「……」
「お前は殆ど着の身着のままのような状態で聖域を離れた筈だ。そんな中でも持ってきたこの写真は、お前にとって何なのだ?お前にとって、これは誰の写真なのだ!」
答えようとしないムウの態度に苛立ったように、サガは暖炉に手を差し入れると、明るく燃える炎の上に写真をかざした。
「私の質問に答えろ」
「……」
「お前にとって大切な写真なのであろう?これが最後だ、ムウ、これは誰の写真なのだ?」

ムウが写真をじっとみつめたまま口を開こうとしないのを見てとると、サガは暖炉の火の上で写真をゆっくりと何度か振ってみせた。それでもムウの唇が固く結ばれたままなのを見ると、サガは炎の上で写真を持った手をぱっと開いた。ひらひらと舞い落ちる古い写真。
「!」

勢いよく燃える火はあっという間に写真をなめ、端から呑み込んで行った。明るいオレンジ色の炎につつまれ、小さな写真は見る見るうちに黒く変色し、散り散りに崩れ落ち、白い灰となって暖炉の火に舞い上がる。

小さな写真の最後のひとひらが崩れ落ちた時、ムウは顔をあげてサガを見た。ムウの瞳が真正面からサガの眼を射ぬく。濡れたように輝く大きな翡翠の瞳は、何かを精一杯こらえてるように強い光を放っていた。
「……お前の強情の対価だ。これに懲りたら、私の言葉には従え」
ムウは無言で俯くと、静かに暖炉の前にしゃがみこんだ。サガはじっと動かないムウの姿を言葉を探すようにしばらく見下ろしていたが、
「……また来る」
そう低い声で口の中で呟くと、コートを手に館の厚い扉を開けると足音も荒く出て行った。




夕暮れのジャミールは冷たい風が吹きすさび、身を切るような寒さだった。サガは高い空を見上げてそのまま館の前でテレポートしようかと逡巡する。だが思い直したように襟元を掻き合わせると、そのまま谷の上の細い一本道を歩き始めた。
薄気味の悪い声が風に乗って立ち上る聖衣の墓場の細道を渡り終えると、サガは立ちどまった。振り返ると坂の上にそびえるジャミールの館を見上げる。1階の窓の奥に微かに明かりが揺れているのが見えた。あの部屋にムウがいるのだ……

ムウの翡翠色の瞳が脳裏をよぎる。
初めてムウは私を見た。それ程までに、あの写真が大切だったという事か。燃え滓となった写真の前で今にも泣きだしそうだったムウの表情が浮かび、サガの胸に痛みが走る。

あの写真は、ムウにとってそれ程大事なものだったのだ。
まだ未来に何が待っているかを知らなかった明るい日々、最後の輝く黄金の日々の記憶。
その写真に、サガは写っていない。

――お前は、あの頃の幸せな過去の中にすら、私の姿は見たくないのだな。

サガはジャミールの館にくるりと背を向けると、そのままふっとかき消えるように異次元に姿を消した。





***

暖炉の火が細くなる頃、ムウはようやく立ち上がった。身体のあちこちが痛い。だが、今日はサガが急に途中で帰ったおかげで大して長引くこともなかったし、少なくとも眼鏡は壊されないで済んだ。ムウは自嘲めいたかすかな笑みを浮かべた。だから、写真一枚の”被害”で済んだと、喜ぶべきなのだ。
――たとえそれが、私の手元にあるただ一枚の「彼」の写真だったとしても。


その時、入口扉の脇に置かれたままの紙袋が目に入った。
一体何だろうと、中を覗き込んでみると雑多なものが入っている。
「……また、こんなものを置き忘れて」
今度はいつ来るつもりなのだろうかと思いながら顔をしかめたムウは、袋の中の物をひとつひとつを取り出して、作業台の上にきれいに並べていった。

分厚い修復の古書が数冊、面白そうな読み物や画集、本で見て気になっていた部品、ちょっとした道具や材料、工具のカタログ、凝った細工のパズル、ムウが好きな聖域の菓子、保存のきくギリシャの塩漬け肉や瓶詰め、はちみつとオリーブの瓶、柔らかな海綿スポンジ……
「これは……」

忘れものではなかった。
ムウはそこに並べた品物ひとつひとつをゆっくりと見る。
「随分と気をきかせてくれたものですね――」

――そう、彼は、サガは優しくて細やかな人だった。ひとりひとりにちゃんと目を配り、どんなものにもわけへだてなくやさしい人だった。
小さな私がどうしようもない程辛い時は、いつもサガがなにげなく白羊宮に顔を出して、それと気づかせぬように元気づけてくれた。
サガは、いつも私達を見守ってくれていて、私は沢山の勇気と安心をサガから貰っていたのだ。

暖炉の中の黒い燃え滓。ムウは暖炉に屈みこむと、煤にまみれて焼け焦げた写真の一片を拾い上げる。
この写真は幼い私達が初めて黄金聖衣を拝領したときのものだ。儀式に向かう前のスナップ写真。
あのとき、私達は慣れない聖衣に緊張したり、照れたり、興奮したりで、大変だった。サガとアイオロスは慣れたもので、そんな私達を上手に相手して落ち着かせてくれた。この写真はそのときサガが撮ったものだ。

勿論、老師以外の黄金聖闘士全員が揃った、立派な額に入った正式な記念写真もある。そこにはサガもジェミニ姿で写っている。だから私はその写真は飾らない。師の仇が写っている写真など、どうして部屋に置けるだろうか。
このスナップ写真には、サガ以外の全員が写っている。

そう、このスナップ写真に写っていないのはサガだけだ。サガがこのスナップを撮ったのだから。
――だから、この写真は、私達のことを見守ってくれているサガのことを思い出させてくれる。

不在の存在。
あの日私が見ていたサガが、このスナップ写真のこちら側、レンズのこちら側にいるのだ。
ここに写っていないからこそ、生き生きとすぐ側に感じられる「彼」の姿を、私はこうして誰にも知られぬよう、自分だけのためにいつも目に入る場所に飾っていた――


「……でも、燃えてなくなってしまいましたね」
ムウの白い指先から、小さな燃え残りの断片は暖炉の中へ落ちて行った。
かつての黄金に輝く日々のよすがは、他でもないサガ自身の手で灰になってしまった。


ムウは火ばさみで暖炉の中の炭を突き崩すと静かに立ち上がり、ちらりと窓に眼をやった。冷たい窓の外にはもうとうに誰の姿もなかった。









***



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