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日々の萌語りとSS
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夏休みボケからのリハビリ的なショートスケッチ。
サガムウ復活後設定ですが、むしろカノムウシリーズの1エピソード。しかし、いつも通りの薄暗さ&ムウ様涙目…(読んでみる方は折り畳みへどうぞ)



*長々しいスターヒル妄想に拍手どうもありがとうございました。自分でもびっくりするくらいの牽強付会っぷりでした。(土下座)





***



ムウは自分の前に置かれたハーブティーのカップを取り上げると一口飲んだ。カップを持つ手がほんの微かに震えている。
テーブルの向かい側には手がつけられないままのコーヒーカップが置かれていた。
――わざわざ別々の飲みものなんて用意しなくていいのに。ムウの唇が皮肉な笑みの形に小さく歪む。

蜂蜜をいれたハーブティーなんてどうせ私しか飲まないのに、サガは双児宮にもちゃんと生のハーブのストックを置いている。そんな風にあの人はいつも私に気を使ってばかりだ……

部屋主が去って誰もいなくなった双児宮の居間に独り取り残されたムウは、ぬるくなったお茶を一息に飲み干した。頬を伝う涙の味がするお茶。もう、帰ろう。

その時、重たく沈んだ部屋の空気がふっと動く気配がした。
「泣くくらいなら、喧嘩しなければいいのに」
そう言いながら開いた居間の扉の向こうから現れたのは、今しがたムウの眼の前を去った人物とそっくりの、別の人物だった。

「--別に喧嘩なんかしていません。サガは私と喧嘩したりするような人じゃありませんから」
--そう、喧嘩できるくらいだったら。
ムウは素早く眼をこすると、それ以上涙が零れ落ちないよう瞬きしながら立ち上がった。
「お邪魔してます、カノン。いたのですか?」
しかしカノンはムウの言葉を無視して言葉を続けた。
「じゃあ、訂正する。泣くくらいなら怒らなければいいのに」
「それは……怒るのは……」

済まない、と低い声で一言それだけを言って、部屋を出て行ったサガ。違う、別に謝って欲しいわけではない。欲しいのは謝罪の言葉などではなくて――

「……それは、勿論怒ります。だって、サガは私が怒るようなことばかりするんですから――」
ムウの視界が再び白くぼやけて部屋が歪む。

そんなムウの様子をじっと見ていたカノンはムウの方につかつかと歩み寄ると、ふっと手を伸ばした。カノンの指がムウの濡れた白い頬にそっと触れる。
「…?]

次の瞬間、ムウの柔らかな頬をむにっと抓みあげたカノンは、芝居がかった声で言う。
「分かるぞ、あいつは本当に碌でもない奴だからな。偏執狂で独善的で露出狂で変人で、世界の全てが自分の責任だと勝手に思い込んでいる。そのくせ、自分は鬼畜にも劣る屑で、なんの価値もない存在なんだとよ。そんな人間と双子であるこの俺は、じゃあなんなんだよ?

知ってるか?あいつ、俺のこの夏の蝉の抜け殻コレクションと寄り抜きグラビア雑誌を全部ゴミの日に捨てやがった。
濡れたタオルはソファに置くなとか、使った物は元の場所に戻しておけとか、ベッドの中でものを食うなとか、とにかくやたら口うるさい。あの保護者面には全くうんざりだ。
それにだいたいあいつは朝が早すぎる。俺がどんなにぐっすり寝ていても、聖闘士がなんちゃらとか言って叩き起こすからな」
そう言うとカノンはムウの頬からぱっと手を離してにやっと笑った。
「だからお前が怒るのは当然だ。お前は怒ってもいい。俺だってあいつには腹が立つことばかりだ。」
「……」

ムウはカノンに抓まれていたじんじんする頬に手を当ててさすった。涙はいつの間にか止まっている。
「――私には、あなたというよりサガこそ怒るのがもっともだという話にしか聞こえませんでしたが……まあ、もういいです。お騒がせしました。」
「そうか、わかった。それならもう日も落ちてきたし、散歩がてら街まで飯でも食いに行かないか?」
「そうですね、それもいいですね……」
そう言いながら、ムウはためらう。もしサガが戻ってきたら。
あんな風に出て行った彼が戻って来た時、宮に誰もいなくて真っ暗だったらどう思うだろう。

カノンはじっと考え込んでいるムウの様子に小さく息を洩らすと肩をすくめた。
「なんか面倒だな、お前達」

「?なにか言いましたか?」
「いや、別に。まあ、街で飯は次回にするか。その代わりここで夕暮れの一杯につきあえよ?」
そう言うとカノンはサイドボードから背の高いグラスを取りだし、ギリシャの蒸留酒を勢いよく注いだ。
「お前はあまり冷たくないのがいいんだよな。じゃあ氷はひとつだけ…」
氷と酒が入ったよく磨かれたグラスをムウの手に押しつけ、カノンは傍らの水の瓶を取り上げた。

「…ありがとうございます」
ムウが差し出したグラスをムウの手ごとカノンが掴み、水を注ぎいれる。ムウの手に重なるカノンの指。サガにそっくりなその指が、ほんの少しだけ強くムウの手に押し当てられる。

「――あのさ、お前が怒るのはいいんだよ。お前がサガに頭に来るのは当然だ」
カノンは乱暴にグラスに水を注ぎながら眼もあわさず無造作に言う。
「ただ、泣くくらいなら怒るな。――お前はもう、泣くな」

水を注がれたグラスの中がぱあっと白く濁る。輪郭を歪ませたひとつだけの氷が白くぼやけた水の中で揺らぐ。
まるで涙を眼の中にいっぱいにためた時のようだと、冷たいグラスを手にムウはぼんやりと思った。



透明なウゾに水や氷を入れると綺麗な白色に濁ります。アニスの香り。
 

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