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日々の萌語りとSS
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こじらせ黒サガとムウ様長編、ようやく続きを書き始められました。




第4章 インベントリー(1)


***



それからムウは、サガに連れられて定期的に聖域の隠し書斎を訪れては、教皇の極秘資料の整理を手伝うようになった。

(……何故私はサガの言うままにここに来て、サガの手伝いをしているのだろう)
殊更難解で取り扱い要注意の資料を手袋をした手でそっと中性紙でくるみながら、ムウはもう何度も繰り返した問いを心の中で繰り返す。そしてそのままそっと横目で、書物机でなにか自分の作業をしているサガの様子をうかがった。

片方を金の紐で緩やかに結んだ深紫の緞帳の前にサガの大きな黒檀の書物机は置かれていた。聖域の紋章が入ったその机で執務しているサガの姿は、まるで一枚の絵のようだった。
窓から斜めに差し込む光に浮かび上がるくっきりと整った横顔。迂闊に話しかけられないような集中した様子。厳しい表情でじっと一枚の書類を見ていると思うと、きっぱりと流麗な署名をして傍らのOUTトレイの中にきちんと置く。
細心だが、果断。そんな言葉がサガの執務姿から浮かんできた。

そうやって執務についているサガは思いがけなくちゃんとして見えた。

しかし考えてみれば、そんなことは当然なのだ。サガはまがりなりにも聖域を頂点とした地上を守るための巨大で強力なシステムの長としての任を果たしているのだから。

だが今までそういう風にサガのことを見たことはなかった。サガにしてもジャミールに表れるときは恫喝と暴力、よくて皮肉と厭がらせだったからだ。
だからこんな風に真剣に執務に当たっているなどと、考えてみたこともなかった。
集中して執務に取り組むサガは、ジャミールで見る短気で衝動的なサガとは全く違っていた。

そう、この人は、アテナに代わって今の地上の全てを守っているのだ――

ムウはいつのまにか手を止めて、サガが執務する姿にじっと見入っていた。


サガは確かに優秀だった。書斎に来るようになってから、サガから色々指示を受ける内に、ムウは改めてサガがいかに様々な点で優れているかに気づかずにはいられなかった。神のようとまで言われていたのは伊達ではない。
態度こそ不快なものだったが、聖域のことをよく知らずこのような作業が初めてのムウにも作業内容や理解しておくべきことなどを驚くほど分かりやすく説明してくれる。

その言葉を語る口の持ち主が誰であろうと、内容は内容であり、事実は事実だ。
そしてサガの言葉は、他では得られないまとまった知識と刺激を与えてくれる充実したものであることは、ムウも認めざるをえなかった。

だが、そんなサガ個人の能力はたわめられている……

本来ならば聖域の表舞台で堂々と活躍すべき能力が、こうして陰に隠れた人目を避けたものとなっている。責められるべきはこんな状況を引き起こしたサガ自身だが、状況を冷静に鑑みればこれは聖戦を目前にしたアテナの聖域にとって大きな損失ではないのか――


「何をみとれている?」
いつの間にかサガが顔をあげて、書物机の向こうからムウの方を向いていた。
「!」
一瞬サガと目が合ってしまったムウは不機嫌に目をそらす。サガは面白そうに唇の端を軽くひきあげると席を立ってムウの隣までやってきた。

「だいぶ翻訳は進んだようだな。頑固なお前にも埃臭い翻訳ばかりはさぞ退屈だっただろう」
作業机の上を覗き込んだサガはムウが書いた原稿の束を取り上げた。目をあわせないようまっすぐ前を見ているムウに、隣に立ったサガが原稿をぱらぱらとめくる気配が感じられる。


「――よし、この古めかしい言葉にもいい加減慣れてきたようだな。では、そろそろもう少し違う仕事をやらせてやろう」



(続)

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