日々の萌語りとSS
黒サガムウ「プリズム」の続き・コデックス(第三章終)を読んでみる方は折りたたみへ。
***
数時間後。
数時間後。
「そちらはどんな具合だ?」
そう言うとサガは立ち上がった。書物机の右手にうず高くつみあがっていた書類の山は、全て左側にきちんと重ねられている。
サガはムウが作業している大きなテーブルに近づくと、草稿の束を取り上げた。
「ふむ……」
「ふむ……」
深く集中していたムウは、サガの声にはっと顔をあげる。
「どう、でしょうか?途中よく分からない部分があって、そこの後はどうにも辻褄が合わなくなってしまいました。だからそのあたりが間違っているのだと思うのですが、でも何度見直しても分からなくて…」
「分かった、この箋の入ってる部分だな?あとで見ておく」
草稿に素早く眼を走らせたサガは、草稿をテーブルの上にばさっと置いた。
「――今日はここまでにしておこう」
そういうとサガはすたすたと部屋の反対側に進んで、書斎の重厚な扉を大きく開いた。扉の向こうには薄暗い双児宮の迷宮の先にジャミールの館の入り口が見えている。
「……」
「どうした?ここからまっすぐに帰れる。そう長くつないでおく訳にいかないぞ」
不快なことも嫌味すらもないままの唐突な解放に、内心少々驚きながらムウはゆっくりと立ち上がった。
正直また乱暴されるのだと半ば覚悟をしていた。だが、サガの様子からはその気はないようだった。
何にせよ、嫌な思いをしなくてすんだのは良いことだ…
ムウはそのままサガの脇を通り過ぎると、無言のまま薄闇の向こうに浮かび上がる石造りの館に向かって歩き出した。扉を押さえてムウを通したサガも、黙ってムウのすぐ後ろを歩いてくる。
奇妙な薄明かりに仄かに浮かび上がる列柱。遠いのか近いのか距離もよく分からないジェミニの迷宮に二人の靴音だけが響く。
この間はあれ程迷ったのに、今回は思いがけないほどあっけなく出口に辿り着いた。振り向くこともなく迷宮に繋がるジャミールの館に入ろうとした時、ムウは短く呼びとめられた。
奇妙な薄明かりに仄かに浮かび上がる列柱。遠いのか近いのか距離もよく分からないジェミニの迷宮に二人の靴音だけが響く。
この間はあれ程迷ったのに、今回は思いがけないほどあっけなく出口に辿り着いた。振り向くこともなく迷宮に繋がるジャミールの館に入ろうとした時、ムウは短く呼びとめられた。
「ムウ」
「?」
「これからも資料整理を手伝いに書斎に来い。私が迎えに来てやる」
「――は?」
「もちろん、役に立たないようならすぐにお払い箱だ。今日以上の水準が維持できないのなら、お前は聖域の資料整理を手伝うに値しない」
自分の手伝いをさせようというのにこの偉そうな言い方は何なのだ。
自分の手伝いをさせようというのにこの偉そうな言い方は何なのだ。
ムウはサガの顔を反抗的に睨みつける。
「そんなことを一方的に言われても!私はあなたの思い通りになるつもりなど――」
「お前は確かに自分で言っていた程度のことはわかっているようだ」
不快感をあらわに声を荒げたムウをさえぎってサガが続ける。
「辞書さえあればこれだけできるのであれば、お前も十分聖域の役に立つ。合格だ。
「辞書さえあればこれだけできるのであれば、お前も十分聖域の役に立つ。合格だ。
何の役にも立たないまま辺鄙な田舎で無聊をかこっている位なら、聖域に有益なことを少しはしてみせろ」
そういうとサガはムウの頭をぽんと軽く手をのせた。
「――よくできていた」
「!」
素早く身を引いてサガの手を振り払うムウに、サガはフッと薄く笑う。
「それに、ジャミールに引きこもっているお前は、聖域についてあまりにも無知だ。黄金聖闘士として、聖域についてもっと知っておいた方がよい」
「それに、ジャミールに引きこもっているお前は、聖域についてあまりにも無知だ。黄金聖闘士として、聖域についてもっと知っておいた方がよい」
サガの瞳に一瞬何か懐かしい色が見えたような気がした。かつて幼いムウがよく知っていた優しいけれど真剣なサガの瞳。
ずきりと胸の奥が抉られるように疼いた。
だがムウは湧き上がりかけた様々な感情を押し殺すようにサガに乱暴に背を向ける。
だがムウは湧き上がりかけた様々な感情を押し殺すようにサガに乱暴に背を向ける。
そのまま正面だけを睨んでジャミールの館の部屋に入ると、サガと一緒に全てを締め出すようにことさらに大きな音をたてて分厚い扉を閉ざした。
(第3章終)
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(第3章終)
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中羊受および双子・獅子・シベリア師弟などについての妄想が渦巻くコキュートスです。
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