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日々の萌語りとSS
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昨日の続きです。


***
 
 
高地での訓練は平地でのそれの何倍も負担が大きい。幼少よりここに住み、体が薄い空気に慣れている私でも、何時間も夢中で動けば相当消耗する。
 
サガへの憎しみのままに技を放ち、訓練というよりも暴力的な衝動のままに岩山を破壊しつくした私は、ついに完全に体力が尽きて崩れ落ちた瓦礫の間にばたんと横になった。
いずれにせよ目の前の岩山はもう姿も無い。また後で元のように積み上げておかなければならないだろう。
 
 
息を整えながらぼんやり空を眺める。
今日のジャミールはとてもいい天気だ。透き通った真っ青な空には雲ひとつない。
峻厳な山の峰に切り取られた深く澄んだ青色。この透明な青が私に昔知っていたある瞳を思い出させた。
 
・・・あの綺麗な瞳をした人はどこに行ってしまったのだろう。あの頃あんなに優しかったあの人は、本当に心のどこかに黒い邪悪を隠していたのか?
 
先ほどまでの身を焦がすような憎悪の念は、破壊し尽くした岩山と同じように、いつの間にか小さく砕けてどこかに崩れ去ってしまった。憎しみはまた、サガに対する疑問に形を変えていく--
 
 
今の黒いサガの奇妙なバランス。
 
彼は「偽」教皇とはいえ教皇職に全霊を傾けて打ち込んでいる。
アクの強い聖闘士集団をよくまとめ、彼らの忠誠と献身をよく維持している。黄金聖闘士の中にすらサガの本当の姿を知ってなお、従っているものがいるようだ。それに近隣の村のものからは、相変わらず神の化身のようだと慕われている。
その点では、公平に見てサガはかなり上手く聖域を運営していると言えるだろう。
 
しかし一方で、サガはそれに伴う名誉や栄光というものにはまるっきり無関心だ。
あれほど懸命に努力していることに対して、自分自身がなんの評価も得られなくて、それでも変わらず尽力し続けられるものだろうか?
 
いわばサガの努力の成果は、公式にはみなシオン様のものとなる。歴史に残るのも、評価されるのも、自分が殺したいほど恨んだシオン様の名前のみだ。
 
名誉を求めず、自分はあくまで影として地上を守り、聖域の運営に力を尽くす―― この客観的事実は「邪悪」な彼の姿とどうしても一致しない・・・
 
 
彼は妙に自分を大切にしていない。

私は唐突に思い出した。
 
 
サガはいつも、どこかそういうところあった。
黄金の中でも最年長で最強の自分自身の存在に、どこか後ろめたさを感じているような、
任務に打ち込みながらも、どこか違うところを見ているような奇妙さ。
 
それは、破壊するものであると同時に、修復し守るものである私自身にも通じる、矛盾した星のさだめがもたらす距離感だった。
 
しかしそれでも、かっての彼はその距離感を、冷静でこまやかな配慮にかえて、みんなを暖かく見守っていた。幼い私の孤独に気づいてくれたのは、サガだけだったのだ…
 
 
今の彼のその時とは違う。この自分自身に対する無頓着さは何故なのだろう…?
この黒いサガは誰なのだろう?何故サガは邪悪な黒に身を堕としたのか…?
 
 いくら考えても答えの出ないパズル――
 
 
その時、頭の中にチカッと閃くものがあった。
 
 
――何かが、足りない。
 
 
パズルを組み立てる上で、何か重要なピースが足りないのだ。
だから、どうしても絵がちぐはぐになってしまう。
 
何か私の知らないことがある――
 
 
私はこの新しい確信を頭の中で何度も反芻しながら、ゆっくりと瓦礫となった岩山を片付け始めた。
 
 


(続く)
 明日は黒サガ登場の予定です。

 
 

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