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日々の萌語りとSS
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なんとか未年の内に最後までと思っていたのですが、時間的にかなり厳しくなってきました;;;(おかしい…なぜだ?いつの間にか異次元に送られていたというのか)
しかも段々「恥ずかしい脳内妄想をわざわざ公表するのもいかがなものか?」モードに陥ってきてしまい、うぎゃああちゃんが出そうに☆
でも、未年記念に書き始めたサガムウ長編なのでちゃんと最後まで行きつきたいです。がんばるー


*いつも拍手どうもありがとうございます。頂く拍手が創作の原動力ですvvv





第6章 テラコッタの水差し(1)


深夜。
このところの聖域の激務に体は鉛のようだった。更にサガには偽教皇として極秘の活動もある。一日が終わるのは連日時計が日付を大きくまわってからだ。隠し書斎の整理もあの日以来手つかずのままだった。
最後に自分のベッドで眠ったのはいつだっただろう。半分徹夜のような生活はもう日常のようだった。だがようやく仕事がひとくぎりついた今日は、なんとかゆっくり休むことができるだろう。

教皇の私室へ戻るはずの足は、だが、いつの間にかジャミールへ向かっていた。


足の下で霜を含んだ砂礫や短い草が砕ける音が響く。深夜のジャミールは濃い闇に覆われ、黒い峰々はそのまま夜空へとつながっていた。サガは険しく切り立った山道で足を止めると、降るような星空を見上げる。身を切るような冷たい空気が疲れで麻痺した体にかえって心地よい。

サガは基本的には自分の足でジャミールを訪れることにしていた。
教皇の隠し書斎は十二宮のある通常の聖域の中にはない。それゆえ、サガの能力と双児宮の特殊な性質をもってすれば短時間であれば空間を歪めてどこか他の場所とつなぐことが可能だった。
だが、それには多大な負荷がかかる上、聖域の小宇宙に不自然なノイズを発生させることになる。だからムウにジャミールと書斎とを行き来させる時以外は、使用しないことにしていた。

もっとも、アテナ不在の聖域でそのような異常に気がつくものがいるとしたら、この私なのだが、とサガも唇が皮肉な笑みに歪んだ。

牡羊座の黄金聖闘士であるムウが聖域と一切の接触を断っていることの不自然さについても同様だ。表向きは「アリエスのムウは聖域の呼び出しに応じない」ということになっている。だが実際はそんな単純な話ではない。
確かにムウは呼び出しに応じないが、同時にムウ自身の意志だけでは聖域に来られないようにしていたのはサガだった。そのようにムウの行動に制限をかけることは簡単であり、当然でもある。
ムウに自由な行動を許すのであれば、聖域から遠ざけた意味がない。目の届かないところでの反抗を許すために、ジャミールに追いやったのではない。

それに、監視と言う意味では他の黄金聖闘士達についても同じだ。誰に対しても油断する訳にいかないこの状況下で、聖闘士の誰がどこで何をしているか把握しておくことは必然といえる。意にそまない行動の気配があれば、芽のうちに刈り取っておく。そのくらいは頂点に立つ者として当然のことだ。

だから、周囲にはムウは反逆者であるという認識を与えておいた。「いくら呼び出しをかけても応じない」と。万一ムウが何を企もうと、やつの言葉に信頼を置くことにためらうように。そしてもしムウが実際に反乱を起こした際には、長年に渡る反逆罪として処罰しやすいように。
だからムウは限られた場所にしかいけないし、その行動は把握されている――


いずれにせよ、サガはジャミールへ行き来はある程度の手間をかけることを好んだ。
何度かのテレポートを繰り返し、ジャミールの山道を登って聖衣の墓場の橋を歩いて渡る。人を遠ざけ聖闘士すら恐れさせる聖衣の墓場の吊橋も、サガにとっては何ほどのものでもなかった。
テレポートを許さないアテナ神殿へ向かう時のように、自分の足で一歩一歩ジャミールの館に近づいく。それはサガにとってある種の儀式のようなものだったのかもしれない。


空気の薄い高地の夜道を息を乱すこともなくサガは登り続ける。やがて吊橋を覆う深い霧の中から抜け出ると、目の前には星明かりに黒いシルエットとなって浮かぶジャミールの館があった。
「…?」
サガの目が訝しげに細められる。
朝が早いはずのジャミールではとっくに明りが消えていてもいいはずなのに、人工の光がない真っ暗なジャミールの夜の中で、木の鎧戸が閉められた館の窓から細く明りが洩れていた。
サガは館の分厚い扉を音をたてないように静かに押しあけた。


煌々と灯ったランプの明かりのもとで、ムウは作業をしかけたまま机に突っ伏して眠っていた。
机の上にはなにかの機械パーツと数字が乱雑に書かれたメモ。積み上げられた本の脇には開かれたままのインベントリーがある。ムウの右手は工具を軽く握ったままだ。

「……」
サガはムウの手から静かに工具を抜き取ると、テーブルの上に音をたてないように置いた。古ぼけたハリケーンランプのつまみをまわして芯を下げ焔を消す。次に部屋の隅にある暖炉の始末をしようと火かき棒を手に、まだ細く火が燃えている暖炉にかがみこんだ。と、その時暖炉棚がサガの目にはいった。

暖炉の上にはもう何も置かれていなかった。あの日暖炉の中に投げ込んだ写真の幻がよぎる。怒りと悲しみに燃えるムウの瞳。暖炉の焔の中に消えて行った一葉の写真。
お前はここにあの写真を置いて何を考えていたのだろう――

ほとんど熾きになった薪に灰をかぶせると橙色の火はすうっと輝きを落とし、部屋は包み込むような暗闇の中に沈んだ。そこでじっとしばらく暖炉の中を見ていたサガは、やがて立ち上がると机で寝息をたてているムウをそっと抱き上げた。

「……」
ムウを腕に抱いて、めったに入ったことがない隣の部屋に入る。寝室として使われているその狭い部屋には斜めになった天井に天窓があり、窮屈ではないがベッドと折りたたみの小さな机と椅子でいっぱいだった。

ムウを静かにベッドに下ろすと、小さな天窓からさしこむ細い月の光が眠るムウを照らし出した。ジャミールにしては珍しく風のない穏やかな夜、ムウの寝息だけが部屋に規則正しく響く。サガは指の背で青闇に浮かぶ白いなめらかな頬にそっと触れた。
根をつめる必要などまったくないのに――

ムウはいつも一生懸命な子供だった。
重すぎる運命の要求するものを小さな体で正面から受け止め、それに応えるべく真っ直ぐに努力を重ねてきた。その重みに歪むこともなく、屈して膝をつくこともなく。
月影の下眠る頬の柔らかさとあどけない寝顔はあの頃と変わらないように思えた。

もともとローテーブルだった中古品を寝台に作り替えたベッドは二人の人間が眠れるだけの余裕があった。サガはムウの隣に座ると手を伸ばしてムウの襟元をゆるめる。月明かりにムウの白い喉が柔らかな光を発するようにぼんやり浮かんだ。サガは身をかがめ、ムウのしなやかな首筋にそっと唇をつけた。

そのときムウが身じろぎした。
「う、ぅん…」
眠たげに長い睫毛を持ち上げたムウは自分の上の冷たい唇の持ち主をぼんやりと見あげる。
「……サガ?」
サガは何も言わずじっとムウを見おろす。
次の瞬間。

驚いた事にムウは「おやすみなさい」と小さくつぶやくと、そのまま再び寝息をたて始めた。
ふっくらした唇には、あろうことかかすかな笑みが浮かんでいるようにさえ見える。

「……」
サガはしばらくそのまま身じろぎひとつせず、ムウをじっと見下ろしていた。
たしかに「おやすみなさい」、と言ったように聞こえた。そしてムウは私を見て、私の名前を呼んで、そう言ったのだ…

ぐっすりと眠るムウは幼子のようにみえた。体は大きくなったが、その無防備さは誰かを信じて眠る子供のものだった。

やがてサガはムウに毛布を何枚かかけてやると、ムウの隣に横になった。
手探りでムウの手を握ると、ムウはぴくりとみじろぎしたが、そのまま目を覚ますことなく寝息をたて続けた。冷え切ったサガの体がムウの体温に仄かに暖まっていく。


あたりは夜の底に沈んだような穏やかな静寂に包まれていた。天窓からのぞくジャミールの凍るような星空をみあげたサガは、いつの間にか深い眠りに落ちていった。



(続)

***

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