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日々の萌語りとSS
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今年も拙サイトにお越しいただきありがとうございました。構ってくださった皆様もどうもありがとうございます。おかげさまで2014年も☆矢をめいっぱい楽しむことができました。
頂いたお言葉や拍手の一つ一つが嬉しくて、沢山の刺激や励みになっております。m(- -)m
また来年も、お時間があるときにでもよかったら相手してやってくださいませ。

それでは、年内最後の更新になると思いますが、黒サガムウの続きです。
みなさま、どうぞよいお年を~。


コデックス3-2

***

「――なぜ私にこんなことをさせようというのですか?」
ムウは目の前の机に置かれた古いコデックス(冊子写本)を反抗的に睨んだ。

今日もサガは何の前触れもなく突然ジャミールの館に現れた。サガの行動も意図も読めないムウは、警戒心も露わに言う。

「お前は聖衣の修理を断っているようだな?あの悪名高い聖衣の谷の道を通るたび、亡霊たちの恨み事がやかましい。こんな何もない場所で一体毎日なにをしているのだ?どうせ暇をもてあましているのであろう。
仮にも黄金聖闘士の端くれに名を連ねるものに、そのような怠惰を許しておくわけにはいかない。それならば、少しは聖域の役にたったらどうだ」

「怠けてなどいません。私は私がなすべきことを、自分の計画に従って進めているだけです」

「なすべきこと、か。こんな辺境の地に独りで一体なにができる?」
「なにができようとできまいと、一つだけ確かなことは、私はあなたの手伝いなどしたくないということです」

「実に愚かな言い草だな。聖域には教皇管轄の極秘資料が沢山あるが、長い年月の間に内容の多くは忘れ去られ、その役割は失われている。今となってはどこに何が記されているかも定かでない。それらを整理し謎を明らかにすることの重要性は、聖域にとってはかりしれない」

居丈高なサガの言葉にムウは乱暴に言い返した。
「ご自分の手柄のために、私にあなたの実績作りを手伝えというのですか!ずいぶんと人を馬鹿にした話ですね」
「お前が手伝うのは私ではない!こんなことは自明だ、それすら分からないほどお前は眼の前のものしかみえていないのか」

反抗的なムウに焦れたようにサガは苛々と言う。
「これは私を手伝うというような眼先の話ではない。お前は私を手伝うのではなく、聖域のこれからを手伝うのだ」

「――物は言いようですね。そうですか、確かにあなたがいずれ追い落とされ、聖域から消え去る時のために、聖域の資料を整理しておくと言うのはいい考えかもしれませんね」
挑発するように言い放ったムウの言葉に、だがサガは当然のように言った。
「そうだ、聖域の伝統と遺産は正しく伝えられねばならん」

怒るかと思ったがあっさりそう答えたサガに、咄嗟に返す言葉が見つからない。ムウは眼の前に置かれた古びた冊子写本にもう一度目をやった。

改めて見てみると、手描きの写本はムウの好奇心を強く刺激するものだった。修復師として知らないものに興味を覚えるのはムウの性といってもよい。

「――触ってみろ。教皇の極秘文書とはいえ、この写本は同内容のものが何冊かあるから、扱いについてはそれ程慎重になる必要はない。制作されたのは16世紀ごろ、コデックスとしては新しいものだ」

ムウは無言で冊子をとりあげた。
コデックスは主に古代ローマから中世にかけて作られていた写本だが、確かにこの冊子はそこまで古いものではないようだった。扉の金彩も顔料インクも美しい色彩を保っている。
薄いコデックスのページをめくってみると、中はほとんど字ばかりで異国の言葉で書かれていた。だが、いくつかの単語には見覚えがある。多分古いギリシャの言葉だ。

「コイネーは読めるな?」
「……少しなら」
サガは満足したように小さく頷いた。
「それならよい。この程度の厚さだ、ざっと目を通すだけなら大した時間はかからないだろう。私は明日また来る。それまでに簡単に内容をまとめておけ」
「え、待って下さい、なにを勝手な――」
一方的に宣言するようにそう言うと、サガはムウの返事も待たずに、振り返ることなくそのまま踵を返してジャミールの館を出て行った。

館の重たい扉が閉じると、またいつもの一人きりの静寂が戻ってくる。
「……」
ムウはもう一度、コデックスを初めからゆっくりめくってみる。

――確かに、ジャミールの一日は長い。
鍛錬にせよ修復の勉強にせよ、ここでやれることは自分なりにきちんとこなしてきたつもりだった。だがそれでも独りきりの生活は単調であり、なしうることも自ずから限られている。

改めて丁寧に目を通してみると、それは確かにコイネーで書かれた古い文書のようだった。miqdasという単語が繰り返し出てくるところをみると、聖域に関わることが書かれているようだ。と、ここまで考えて、それが当然であることに思い至る。
もちろんそうだ。これは聖域の古文書なのだから。

「お前は私を手伝うのではなく、聖域のこれからを手伝うのだ」

先程のサガの言葉。
――確かにそうかもしれない。

これはサガと私の確執とか、そういう目先だけの話ではない。もっともっとずっと大きなスパンの話なのだ。
考えるべきは、あくまでサガ個人には下ることなく、今の私が聖闘士としてアテナと聖域のためにできること――

ムウはコデックスの一ページ目を改めて開いた。




(続く)

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