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日々の萌語りとSS
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リアムウ続き(その2)。一度は書いてみたかった過去場面。









***

すっかり日の落ちた一日の終わり、俺は涼と休息を求め、獅子宮入口の階段に独りぼんやりと座っていた。夜空には夏の星座が輝き、西の空には沈みゆく細い金色の三日月がかかっている。


やはり何度考えても、ムウの不機嫌の理由は分らなかった。
しかも俺はムウと共闘していたあの勅に、実を言うといつにない高揚感を感じていたのだ。


ムウと共に敵にあたり、作戦を遂行する。
もちろん同僚の聖闘士達はどの一人をとっても信頼できる戦友ばかりだ。だがムウはやはり特別だった。ともに肩を並べ、あるいは背中合わせで闘う時の一体感と充足感。
呼吸が一つになり、どこか深いところでしっかりと繋がり連携し、言葉さえもいらないというあの感覚。


だから、あの勅の時も俺は何のためらいもなく、敵兵の直中へ飛び込んで行けた。
自分は大将をやればよい、と。たとえ俺がボスと相討になったとしても、残った敵はムウがなんとかしてくれる、と。
「背中を預けられる」という言葉の持つ一番深く、幸せな意味を、俺はムウと背中合わせで闘う時なによりも実感するのだった。


しかし、ムウはどうもあの戦いの何かが気に障ったようだった――
俺は後ろ手をついて夜空を見上げる。


…確かにやや強引な攻撃だったかもしれない。もしかすると無謀だったとすら言えるかもしれない。
俺はあの瞬間自分の小宇宙をボスへの一撃で使い果たしていたから、あのまま周囲の敵に一気にやられてしまっていても不思議ではなかった。


だがムウの小宇宙を後ろに感じていたから、俺はためらうことなくあの技を撃てたのだ。


俺は視線を落とすと、すっかり日が沈んだ聖域の暗い木々の間に白羊宮の白い屋根を探す。


ムウ。
聖戦が終わり、やっと聖域で同じ時間を過ごせるようになったと思ったのに――


そのまま俺の思いは13年前の事件当時へと、とりとめもなく漂って行った。


 


 


…あの朝、「アイオロスの謀反」が聖域に発表され、俺は重要参考証人として雑兵たちに叩き起こされ、獅子宮から半ば引きずりだされるように連れ出された。


何が起こったのかとても理解できず、ただただ茫然自失の混乱の中、こづかれ、乱暴に突き飛ばされながら、白い埃が舞う道を尋問房へと連行される。手首に屈辱的な鎖と木の重いいましめをはめられ、四方を雑兵たちに固められて。


道の両側に連なる聖域の人々。混乱と怒りの熱気の中、飛び交う怒号と苛立ちの叫び。遠巻きに様子を伺っている文官達の顔には怯えの表情が浮かんでいる。
何かを叫んでこちらへつかみかかろうとしている金髪の巻き毛の少年を、必死でとめている同じくらいの年の少年達。みんな涙を流している。見覚えがある顔ぶれだが、網膜に映る像は何も意味をなさない。


うなじを朝の太陽がじりじりと焦がしているのに、俺の身体はどんどん冷えていった。自分のどこかが壊れそうに激しく揺すぶられているのを他人事のように感じながら、頭の中も身体の奥も暗くうつろになっていく。外界とは切り離されているかのような、深くて絶望的な闇――


そのとき。
手を振り回して怒声をあげる興奮した人々の頭越しに、少し離れた所からじっとこちらを見ている少年の姿が見えた。眩しい光の中、途端にぶれていた視界が、急速に像を結んだ。――ムウ!


ムウは、人の輪の向こうからじっと俺をにらんでいた。
ぎゅっと噛み締められた赤い唇。顔色は真っ青だったが、大きな翡翠の瞳には涙は無く、きらきらと強い光を放っている。
麻痺状態だった俺の中で何かが大きく動いた。枷をはめられた重たい腕を持ち上げ、ムウの方へ一歩踏み出す。
「――ム、」


しかし俺たちの視線が空中で出会ったその時、ムウはかすかに首を振ったように思えた。
「おい、何をしている!よそ見をせずとっとと歩け!」
雑兵に乱暴に突かれた俺は、よろめき進みながら頭だけ振り返ってムウを見る。――ムウ!


青ざめた顔のムウは、相変わらず強い視線で瞬きひとつせず俺をみつめながら、今度ははっきりと頷いた。
そのとき、俺は確信した。ムウは、真実を知っているのだと。
ムウは、兄が謀反を企てるような人間ではないと、ちゃんとわかっているー―。


そのまま、怒号や絶望の声が飛び交う中、俺は取り調べを受けるため乱暴に連行されていった。人の波の向こうに小さなムウの身体はすぐに見えなくなる。
だが混乱の中、俺の瞳にはムウの姿がいつまでもくっきりと焼きついていた。
俺たちは遠く隔てられていたけれど、あのとき、俺たちは誰よりも近くにいた。


 

(続く)


 

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