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日々の萌語りとSS
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ついに映画公開が明日にせまり、怒涛の宣伝&商品展開ですね。コラボも含め、とても追いきれません。今週だけで星矢&御大関連書籍が何冊出るのでしょう。こんな幸せな悩みに困らされる日が来るなどとは夢のようです。


そんな中、空気を読まずに自爆気味黒サガムウの続きをあげさせていただきました。ひとまずこの章は終わり。

*沢山の応援拍手&コメントありがとうございます。不要の方も嬉しく拝読させていただきました。
連打ありがとうございます。カノムウ&ミロムウですね。サガムウも了解致しました。

*せっかく妄想ギミックを捏造したのに全然活用wできておりません。どなたか有効利用してただけると嬉しいです。

*ヴォイニッチ手稿は、野菜ジュースみたいなアレだと思っていただければ。



*愛あるサガムウを他所様で拝読して、このところすごく幸せです。最近はLoSサガ立ち絵の影響で黒サガムウばかり書いてますが、そもそもはサガをムウ様と幸せにしてあげたいというのが拙サイトの原点なので。
ツンデレの黒もいいのですが、普通に優しくて年の差かっこいい(ちょっとヘタレな)サガとムウ様が仲良しなのもいいな~/// 




(「ジェミニの迷宮(3)」を読まれる方はお進みくださいませ↓)




***



第一の宮に立ちはだかるアリエス。いつも私の前に立ち、私の邪魔をする目障りなアリエス。なぜ思うようにならないのか。

サガは、気を失ったように眠るムウをジャミールのベッドの上にそっと下ろした。あのまま一晩中苛んだのだ、運ばれても目が醒めないのも当然だろう。
毛布を肩までかけてやると、ベッドの中のムウの隣に浅く腰かける。

いつもそうだった。世界は私の計画通りに進む、それが当たり前だった。
だが、いつもアリエスだけは思う通りにならない。

好きなように扱っても、ムウが私の思いのままになっているという実感が全くない。思うさま傷つけ穢しても、懇願するまで追いつめても、それでも私のものになったと思えない。

世界中のなにもかもが、支配者である私の命ずるままになる。私が欲しいものはその気になりさえすればすぐに手に入る。それは当然のことだ。私はそれに値する。

そう、それくらいのことは当然ともいえる努力を私は重ねてきた。そして常に期待に応える結果を出し、聖域と世界を守ってきた。
それなのに何故なのだ。手の中にあるのに、自分のものだと思えないのは。
何故なのだ、世界に色がないのは。


……もしあのアリエスが、私の名前を呼んだら。


サガはかすかな寝息をたてて眠るムウの顔をじっと見ていた。アリエスのムウ。ふっくらした頬や丸いおとがいの印象は子供の頃と変わらない。だが優しげな顔立ちからは思いがけない戦士らしい気の強さは相当なものだ……

眠るムウに顔を近付けそっと口づけようとしたサガが、ふと動きをとめる。ムウの唇が微かに動く。誰かの名前が聞こえたように思った。
サガはふいと顔を背けると立ち上がり、そのまま振り返らずジャミールの館を出て行った。






***



目を覚ますとそこはいつの間にかジャミールの自分のベッドの上だった。そこにどのように運ばれたのか、いつあの拘束具が外されたのか、全く記憶にない。
結局、最後は何もかも分からなくなるまで蹂躙され、サガになされるがままに夢中でしがみついていた。

何故目が覚めたのだろうとぼんやり訝しんでいたムウは、はっと気づく。今は誰もいない部屋のがらんとした空間は、まだ仄かに人の気配を残している。

あちこちに残る甘い痛みをこらえて立ち上ると、ムウはカーテンの陰から窓の外をのぞいた。遠ざかって行く背の高い後ろ姿。一本道を通り聖衣の墓場の谷を渡りきったところで、サガは立ちどまって振り返る。ムウはあわててカーテンの陰に身を隠した。そのままサガはじっとこちらを見ているようだった。

「用」は済んだ筈なのに、何故ああしてずっとあそこに立っているのだろう。
しばらく道の向こうで立ちどまっていたサガの姿は、やがてかき消すようにふっと異空間に消えた。


カーテンの陰から誰もいなくなった谷の向こうをそのまま見ていたムウは、やがて静かに窓から離れると浴室に向かった。
真鍮の重たいコックを捻ると、降り注ぐシャワーの湯の下に立つ。乱暴に扱われた痕が残る肌に湯が沁み、ムウは小さく顔をしかめた。脳裏に甦る生々しい記憶を洗い流すように、柔らかな海綿スポンジに石鹸を泡立て肌の上をすべらせる。

早朝の爽やかな冷たい空気が開け放った窓から浴室に入りこんできた。朝の餌場に向かう鳥たちが鳴き交わす声が遠くで聞こえる。昨夜のことが幻のように思える穏やかな朝。

……偽教皇の件が私に知られた後も、サガは何故私に会いにジャミールに来るのだろうと思っていた。あれ程執拗に私を苛み、お前は私のものだと繰り返す。それは一体何を意味するのかと。

シャワーの湯気の下で、ムウは胸や腕の内側にぽつぽつと残る赤い痕にそっと指で触れる。押さえるとかすかに残る痛みに昨夜の記憶が立ち上る。

だが、答えは単純なことだった。
サガはアリエスに復讐したいのだ。
そして私はアリエスだから。

「私を認めなかったアリエスの教皇。そのアリエスが統べる聖域。
だが、聖域もお前というアリエスも結局私のものだ。私は全てを自分の力で手に入れた」
嘲笑うように、だがどこかに苦々しげにそう言い放ったサガの姿が浮かぶ。

サガが私に会いに来るのは、私がアリエスだからなのだ。

そう、ただそれだけのこと。

ムウはキュッと音をたてて湯栓を締めると、長い髪をひとまとめに絞りながら浴室を出た。

――だからといって今更どうだというのだ。歪んだ野望とねじれた欲望を私にぶつけているだけという状況は変わらない。

タオルで身体を拭きながら居間に入り、海綿スポンジを風通しのいい窓際にかける。この浴用の海綿スポンジは先日の包みに入っていたものだ。

……子供の頃サガに教えてもらって使い始めた、柔らかく気持ちの良いギリシャ産の天然スポンジ。
サガは定期的に新しい海綿を持って来てくれた。その度、今度のはジャガイモみたいですねとか、ちょっと鋏を入れて動物の形にしてみようとか、サガと他愛ない会話をかわす。そんなことも幼いムウにとって辛い修行の日々の小さな楽しみのひとつだった。
優しく清らかな、神のように皆から慕われていた少年――。あの少年がどこかに邪悪を隠していたというのか?

閉めたままだった居間のカーテンを開いて窓を開けると、草の香りがする気持ちの良い風が入ってきた。陽の光の眩しさに目を細めながら、ムウは高い空を見上げる。

――だが、シオン様の名を奪ったのではなかった。サガは卑怯な僭称者ではなかった。

シオン様の地位を乗っ取るための犯行だったとばかり思っていた。卑劣な策を弄してシオン様を亡きものとし、シオン様の名を騙って驕り高ぶる恥知らずだと。
だが、周到に計画しての姦計ではなかったのだ――

窓からの風にカーテンが揺れ、視界の隅を床におちた影がよぎった。誰かが訪れたのかと一瞬どきりとする。サガの髪のような黒い影。

――だめだ、こんな風に考えるべきではない。サガは師の仇なのだ。
サガのことを理解する必要などない。サガはアテナに仇なす聖域の簒奪者だ。何があったとしても犯した罪は罪、サガの動機が何であろうと私は彼を憎むのみだ。
改めてムウは強く自分に言い聞かせる。

だが、自分にそう言い聞かせた筈なのに、耳の中にサガの声がよみがえる。
「無論だ、自分が負うべきものは当然負う」
そう無造作に言ったサガのあの声。
まるでジェミニの迷宮だった。頭の中でこだまする仄暗い双児宮を走る自分の靴音。
迷っても迷っても、最後に開く扉は、いつもサガのいる場所に続いている――
明るい日差しがふりそそぐ朝のジャミールの館で、ムウは床の上の揺れるカーテンの黒い影を見ながらいつまでも立ちつくす。

ジェミニの迷宮。ジェミニの迷宮にとらわれ、迷い続ける。





「ジェミニの迷宮」 終





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